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一ノ宮聖四郎

伝統工芸士インタビュー

西村織物を職能集団かつ
アーティスト集団に

意匠 一ノ宮 聖四郎

西村織物のデザイン部門を牽引するキーパーソン。独創的なデザインと職人とのチームプレイで、博多織という伝統工芸品をアートの域にまで引き上げるべく、日々研鑽中です。20代の頃、職人として得た織りの技術や知識もアドバンテージとなっています。

一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎

博多織の図案は
やっぱり博多でつくらなくては

初めて博多織と出会ったのは、小学5年生の時ですね。地元の伝統工芸品を学ぶ授業があり、先生から博多織の小物をさわらせてもらえたんです。絹織物の何とも言えない輝きに、きれいだなあって惹かれたのをよく覚えています。

高校は太宰府市にある筑陽学園のデザイン科を卒業。学生時代から浮世絵が好きで、日本画も得意だったので、着物や帯のデザインをしたくてとある織元に入社しました。ただ、その織元では、社外の図案家さんが描いた図案ばかりを使っていて。私の仕事は、いただいた図案を織物の意匠図として方眼紙のマス目に落とし込んでいくことでした。

もちろん意匠図をつくることも大切な仕事で、今もパソコンで行っています。ただ一番やりたいデザインはできないんだと正直がっかりしましたねえ。また、博多織と言いながらも依頼する図案家さんは京都在住の方だったりして、もやもやと割り切れない気持ちを抱いていました。

そうこうするうちに図案家さんが高齢化していき世の中のニーズと合わなくなっているのを感じていらっしゃったので、自分でも少しずつ図案を書き始めたんです。最初は一ノ宮が勝手なことをしているぞという空気が流れましたね。でもよい図案を描けるようになるにつれ、徐々に認めてもらえるように。私の図案も採用されていきました。やっと博多生まれの博多織の図案の完成です。

その後、独立してフリーランスの図案デザイナーになった後、西村織物の今の社長に声をかけていただき、2016年に西村織物へ入社しました。

西村織物に入社後、
チームプレイで得たものがある

フリーランス時代は図案の制作に打ち込める一方で、デザインだけを供給しているような感覚も出てきて、もどかしさを感じていました。織りの現場が遠くなり、自分の図案がどのような設計でどのような帯に織り上がったのか、知る機会が減ってしまったんですよね。

ですから西村社長に声をかけていただいた時はわくわくしましたね。西村織物ならば染色、整経、製織といった各分野の職人さんが揃っているため、みなさんとガッチリと手を組んでものづくりができますから。その気持ちは今も変わらず、大変充実した思いで仕事に取り組めています。

また当たり前ですが、織物はプリント生地ではないですよね。そのため平面に描いた図案がそのまま織り上がるわけではありません。使う糸の品質、本数、織りの組織などで仕上がりが大きく違ってくるんです。実際、職人さんにサンプルを織っていただいた後、自分のイメージと全然違う仕上がりになってしまうこともありますよ。そんな時は意匠を見直して組み替えたり、工場長の作本さんや職人の松尾さんに相談させてもらったりしながら、細かな調整を重ねて理想の織りに近づけていきます。その繰り返しで、新作として世に出すまでに1年かかった帯もありますね。

私が考えるに、チームプレイで試行錯誤しながら織りに向き合えるのが、西村織物の強みじゃないでしょうか。ですから分業体制では実現できないようなデザインの帯を形にすることができているのだと思います。

一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎

アイデアが出るまでは、
達磨大師の面壁九年のように

チームプレイでものづくりができる一方、デザインのアイデアを出す仕事はとても孤独な作業です。誰かに相談して、まあこれでいいよねというわけにはいきません。独りぼっちでひりひりしながら自分自身と向き合っています。

かつての和装業界には、同じ柄の帯を数百本つくっても売れていた時代があったんですよ。でも今は多品種小ロット生産が主流。西村織物でも毎年100柄くらいの新作をつくっています。ざっくり計算すると約3日で1柄のペースです。だからアイデアが行き詰まることもありますし、葛藤の連続で頭がおかしくなりそうなくらい自分と戦うこともあります。例えるなら、達磨大師の面壁九年ですよ。手も足も出ないじゃいけませんが、辛抱強く、粘り抜いてアイデアを出していきます。

また帯は織物ですからたくさんの制限があるんです。色数を増やしすぎるとコストが上がってお客様の手に届きにくくなりますし、職人さんが織りにくいデザインだと帯の幅がガタガタになってしまうことも。

さらに帯をしめてお太鼓をつくる部分はアートでいえば「額縁」です。その部分をメインに据えて造形表現を考えるのは当然で、お太鼓の下に見えるタレの部分や帯締めがくる前面のデザインとのバランスをどうしようかなど、とにかく配慮することが多くって。でもその制限のなかでいいデザインを考えるのが楽しくもあります。いや、やっぱり大変かなあ(笑)。

私ごとにはなりますが、今、西村織物の帯のデザインを任していただくことが多いなかで、「このデザインがいい」と自分で宣言できるからこその厳しさを感じています。自分の信念を持って、これが正解なんだと言い切らなければいけない。大げさかもしれませんが、孤独な独裁者ってこんな心境なのかな、なんて思うときもあるほどなんですよ。

デザインの仕事は本当に終わりがない。休日でもずっと頭の中にあります。ですからこの先ずっと修行の連続、一生が修行だと思っています。

理屈でなく、ひと目でいいね!と
思えるデザインを

私のデザインは独創的でありたいし、うれしいことにそんな評価をいただけることがあります。そして独創的でいながら品格のあるものをつくりたくて、エレガントさ、優雅さも大切にしてきました。また個人的にはシンプルなものが好きなんですよね。削ぎ落とされたミニマムな美しさに惹かれるというか。ですからデザインをする時にも、常にそういった意識を持っていますね。

また、説明をしなくとも、ひと目見ただけで理解していただけるデザイン、大人も子どもも理屈抜きでいいね!と思ってくれるようなデザイン。そういったものを生み出せるようになるのもひとつのゴールなのかもしれません。

印象に残っている仕事のひとつに、芥子の花の帯があります。そのデザインに取り掛かった時はある音楽を脳内再生しながら、ものすごい勢いでデッサンしたのを覚えています。意外かも知れませんが、ギューッと押さえつけられていたものが、バーンと爆発するような曲なんです。その勢いで芥子の花を咲かせたようなイメージです。だからでしょうか、高貴な雰囲気のなかにも躍動感があるという感想をいただけました。柄を複雑につくりながら、色をあえて排除しているのも特徴ですね。

こちらの帯の柄は資生堂のデザインチームから気に入っていただき、クレ・ド・ポー ボーテの2019年ホリデーコレクションのショッパーデザインなどに採用されることとなりました。資生堂のデザインといったら、日本のデザイン業界のなかでも高みにあるものです。そのようなデザインを手がけられる方々から共感していただいたことが、光栄でしたね。

一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎

「アートは問題提起」を帯の上にも

西村織物には伝統絹織物とアートの融合に挑戦するシリーズ「Rライン」があります。毎年、テーマを掲げてアート性の高い図案をオリジナルで起こし、それを職人さんの技術の集結で表現していくシリーズです。

ここでアートという言葉を打ち出しながらもその裏側で、デザインとアートの境界線って何だろう?と自問自答することもありました。そんな折り、中村人形 四代目の中村弘峰さんと元サッカー選手の中田英寿さんの対談を聴く機会をいただいたのです。すると中田さんからデザインとアートの違いを問われた中村さんが「デザインは問題解決、アートは問題提起だ」とおっしゃっていて。

この言葉から大きな刺激をいただき、帯でも問題提起をしてみたいと、深く向き合っているところです。一例としては「Rライン」から発表した「FLOWERS MAP _ East Asian」という帯があります。東アジアの9つの国や地域を象徴する花……例えば日本は桜と菊、韓国はムクゲ、中国は牡丹といった花々を地図のような距離感でレイアウトしている帯です。

人間の世界には国境があるけれど、花に国境はありません。花のように争うこともなく、多様性を認め合って繁栄してゆければどんなに素敵なことでしょう。そんな世界平和への祈りを帯の上に描いています。

このようによい刺激、よい出会いに恵まれる環境も、デザイナーとしてはありがたい限りです。博多最古の織元として認められた土壌があること、また他社とのプロジェクトやコラボレーションに積極的に取り組む社風も、私の成長につながっています。

一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎
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職人はアーティスト集団にもなれるはず

「Rライン」のデザインをとおしてアートへの意識が高まるうちに、西村織物は最高の職能集団でありながらアーティスト集団である、アーティスト集団としても皆で輝きたいという思いが強まりました。伝統工芸品である帯および絹織物も、アートに昇華させられるようもっと取り組んでいきたいですね。

伝統工芸士の資格についても、資格を持つこと=責任だと捉えています。資格とは、この素晴らしい博多織の伝統を後世につないでいく使命だと受け止めているんですよね。

またここ数年は福岡市早良区有田にある遺跡から出土した、日本最古の絹織物・弥生絹に大変興味を持っているんです。2000年前の弥生人がつくっていた絹織物を、復元できたらおもしろいことになるんじゃないかと胸を高鳴らせています。1cmの間に経糸40本、緯糸20本という織りの設計は判明しているので、きっと可能でしょう。

西村織物は福岡で最古の絹織物の織元です。その織元が日本最古の絹織物を復元するのですから、やってみる価値は充分です。ただ、日々のデザインもありますからね。これはもう夢とロマンの領域だと思いながらも、本気で実現させたいですね。いつになるかはまだお約束できませんが、どうぞ楽しみにしていてください。そしてこれらの結果として絹織物の価値やブランド力が少しでも向上すれば、私もうれしい限りです。

一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎
一ノ宮聖四郎

意匠一ノ宮 聖四郎

意匠部門(平成21年認定)

1974年、福岡生まれ。筑陽学園のデザイン科を卒業し18歳で博多織の世界へ。織元で製織業務も経験し、デザイン、意匠、織物設計を手がける。2016年、西村織物に入社。帯以外のデザインも多く手がけ、プロダクトデザイン、企業間コラボレーション企画にも参加。西村織物のものづくりを牽引している。